無表情なコウモリは繊細カメレオン

説明などない。裏も表も縫い目は縫い目。

コウモリさんのおうち

さあ、おうちに帰ろう。

早く帰っておうちでご飯を食べてゆっくり寝ようね。

 

そんな気持ちは、コウモリにはわかりませんでした。

コウモリは、どんな場所も自分のおうちではありませんでした。

そこに、自分を生んでくれたお母さんがいても、そこに、自分の生んだ子供たちがいても。

 

コウモリは、どんなに寒い日でも「おうちに帰りたい」とは思いませんでした。

「そろそろ家に帰る時間」と思うことが一番の苦痛でさえありました。

 

自分はよそ者だという被害妄想を持っていたからでした。

そのような被害妄想は、生れる時から抱っこしていたものでした。

コウモリは、コウモリの群れの内でも安心できませんでした。

自分は確かにコウモリだからコウモリの中に混じっているのに、自分の羽はどうやら安いプラスチック製のようで、みんなのように飛ぶことが出来ません。

逆さまになって寝るのも何度やっても落ち着きません。

 

 

コウモリはひとりぼっちで生きることを覚悟していました。他のコウモリに会うと仲間のフリをすることは忘れませんが、本当の仲間などいるはずはなく、自分の帰りたいおうちが出来るなんてこともないままこの一生を終わるつもりでいました。

 

ある日、偶然出会ったカメレオンは素敵なおうちに住んでいました。

カメレオンは繊細で、コウモリとは全然違う生き物でした。

しかしカメレオンは、コウモリに「一緒にここで暮らそう」と言いました。

 

カメレオンとコウモリはお互いに好きでありながら、コウモリのそれまでの生き様があまりに不誠実なものだったので、カメレオンの不信を招き諍いも起きました。

それでも一緒に居てくれて「ここが君のおうちだよ」と言ってくれるカメレオンに、コウモリは尋ねました。

「私はコウモリなのに、なぜ仲間だと思ってくれるの?なぜ家族にしてくれたの?」

カメレオンは優しく答えました。

「君がコウモリ?君はぼくと同じ、カメレオンじゃないか。」

 

コウモリはもう、偽物の羽をつけたコウモリではありませんでした。

目の前のカメレオンと同じ、カメレオンでした。

カメレオンは繊細で、他のカメレオンの存在がストレスになり死んだりするものですが、なぜかこのふたりのカメレオンはお互いを別のカメレオンだと認識することはありませんでした。

ふたりは、ひとりでした。

 

コウモリだったカメレオンは、今では家族のカメレオンと外出しても、こんな会話をしているようですよ。

「寒いね、早くおうちに帰ろう。」

「おうちでご飯を食べて、アイスを食べて、お風呂に入ってゆっくり寝るとしよう。」